ファンエンゲージメントとは?高める方法・効果・事例を紹介

ファンエンゲージメントとは、ファンがスポーツチームに対して感じる深い感情的なつながりのことです。ファンエンゲージメントを理解することで、ファンのロイヤルティを高めて売上や知名度を向上させる戦略を立案できるようになります。

 

本記事では、ファンエンゲージメントの意味や顧客エンゲージメントの違いから、高めるメリットや施策の立て方、事例まで詳しく解説します。


▶記事監修者:古谷 有騎氏
スポーツモチベーション所属トップトレーナー
PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー
米国スポーツ医学会認定 運動生理学士(ACSM/EP-C)

東京神楽坂・会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」で幅広い年代のクライアントの運動指導を行う。青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。
その他にも『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ)の出演、NHK文化センターの講師、書籍では『肩こり・腰痛 速効!かんたん体操』(コスミック出版)の構成を担当するなど、活動の幅を広げている。



ファンエンゲージメントとは

ファンエンゲージメント(Fan Engagement)とは、スポーツチームとファンの間に築かれる強固な関係性のことです。ファンエンゲージメントが高いファンは、試合に足を運んだりグッズを購入したりするだけでなく、SNSでチームに関する情報を共有したり、選手との交流イベントに参加したりする傾向にあります。

 

ファンエンゲージメントと混同しやすい言葉に「顧客エンゲージメント」と「ファンエンゲージメント」があります。それぞれの違いについて、詳しく見ていきましょう。


顧客エンゲージメントとの違い

顧客エンゲージメントとは、顧客と企業の信頼関係のことです。顧客が製品やサービスから得た価値や体験を通じて、愛着や親近感が深まることで、結果として信頼関係が強まります。例えば、あるブランドの商品の使用によって生活の質が向上したと感じることで、ブランドに対する信頼や愛着が生まれ、購買意欲も高まります。

 

一方、ファンエンゲージメントはファンとスポーツチームの強固な関係性のことです。ファン参加型キャンペーンや選手との交流などによって密接な関係を築くことで、チームを応援したい気持ちが強くなります。結果として、チケットやグッズの売上やリピーター率の増加が期待できます。 

 


ファンマーケティングとの違い

ファンマーケティングは、ファンエンゲージメントを向上させるための「戦略」や「手法」のことです。単なる観客としてではなく、スポーツチームの「ファン」として捉え、強い関係性を構築するためにマーケティング施策を行うことが重要です

 

ファンマーケティングの施策例として、SNSファン投票や応援メッセージをドームのスクリーンに表示するなどの方法があります。 
 



ファンエンゲージメント向上の効果

ファンエンゲージメントが高まると、グッズやチケットなどによる売上が向上することに加えて、試合やイベントへのリピート参加も増加します。

 

ファンエンゲージメント向上の効果として、下記の3つが挙げられます。

 

●     売上が増加する

●     リピーターが増加する

●     口コミの拡散力が高まる

 

ファンエンゲージメント向上の効果について、詳しく見ていきましょう。
 


売上が増加する

ファンエンゲージメントが高まると、チームのグッズや試合のチケットの販売数の増加が期待できます。例えば、サッカーチームが新しいユニフォームや限定コラボグッズを販売した際、ファンエンゲージメントが高いファンはそれらを即座に購入します。

 

また、ファンイベントやVIP観戦席など、特別な体験ができるサービスも意欲的に購入するようになります。
 


リピーターが増加する

ファンが試合観戦で素晴らしい体験をすると、再び体験したいという意欲が湧き、リピート率が向上します。例えば、試合後に行われる選手との交流イベントやサイン会は、リピートの大きな理由になります。

 

また、連続して観戦することでポイントが貯まり、特典を受けられるプログラムもリピーターの増加につながるでしょう。
 


口コミの拡散力が高まる

ファンエンゲージメントが高まると、ファンは自らの体験をSNSや口コミに投稿するようになります。例えば、バスケットボールの試合で劇的な逆転勝利や、感動的な演出が行われた場合、ファンは興奮を覚え、1人でも多くの人に知ってもらいたいと思うことでSNSで共有します。

 

また、多くのファンがX(旧Twitter)へ自発的に口コミを投稿することで「トレンド」に表示され、さらなる拡散が期待できます。その結果、チームや選手に興味を持つ「見込みファン」が増加します。
 



ファンエンゲージメントを高める方法

ファンエンゲージメントを高めるためには、ファンとの接点を増やし、より深くチームに関わる仕組みを作ることが重要です。下記の方法によって、ファンがチームや選手とのつながりをより強く感じるようになります。

 

●     ソーシャルメディアを活用する

●     ファン向けモバイルアプリを提供する

●     ライブ配信を行う

●     ファン参加型キャンペーンを実施する

 

ファンエンゲージメントを高める方法について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
 


ソーシャルメディアを活用する

SNSを含む「ソーシャルメディア」を通じてファンとチームが継続的にコミュニケーションを取ることで、ファンエンゲージメントが向上します。

 

例えば、Instagramで試合の舞台裏や練習風景を公開すると、ファンは普段見ることのできないシーンを楽しめることでチームへの親近感が増し、より積極的に応援するようになります。

 

また、試合前の選手インタビューやファンとのQ&AセッションをSNSでライブ配信し、双方向のコミュニケーション機会を創出することも可能です。

 

さらに、ファンが独自のハッシュタグを使って投稿するよう促すことで、ファン同士のつながりが生まれ、チームを中心としたコミュニティが形成されます。例えば、ハッシュタグ「#Team〇〇」を作り、ファンが試合観戦時の写真や応援メッセージを投稿することを奨励すると、ファン同士がつながるきっかけになります。


ファン向けモバイルアプリを提供する

ファン限定サービスを利用できる「ファン向けのモバイルアプリ」の提供も、ファンエンゲージメントの向上につながります。

 

アプリを通じてファンだけが利用できる特別なサービスを提供することで、「特別感」を与えられます。また、ファンが選手やチームとより近い距離で交流できる有料プランを導入することで、さらに強いつながりを生み出すことが可能です。

 

例えば、試合前にはアプリで最新のチーム情報やイベントの告知を配信し、試合中にはリアルタイムのスコアや選手のパフォーマンスデータを提供します。試合後には、ファンが試合結果を共有したり、選手のインタビュー映像を視聴したりできるなど、試合前から試合後までファンをサポートする機能を搭載することが重要です。

 

また、来場ごとにポイントを貯められる「来場チェックイン機能」を導入し、ポイント数に応じて特典を提供することで、ファンのリピートを促すことができます。
 


ライブ配信を行う

ライブ配信を行うことで、ファンはリアルタイムでチームの試合観戦やイベントへの参加が可能になります。

 

単なる試合やイベントのライブ配信に留まらず、視聴者が自分の好みの角度から試合を観戦できるなど、特殊な機能を搭載することで、ファンエンゲージメントをさらに高めることができます。

 

例えば、スポーツのライブ配信においては「マルチアングル機能」を導入すれば、ファンは選手の視点やゴールラインの近くからの映像など、さまざまな視点から試合を楽しむことができます。また、遠隔地の友人と一緒にライブ映像を視聴しながらチャットで感想を共有する「ウォッチパーティ機能」や、試合中にファンが参加できる「クイズ・アンケート機能」を設けることで、双方向のコミュニケーションを促すことが可能です。
 


ファン参加型キャンペーンを実施する

ファン参加型キャンペーンを実施することで、ファンとの双方向のコミュニケーションが可能となり、エンゲージメントが高まります。例えば、ファンによる投票キャンペーンや、ファンが考案したデザインを採用する企画が挙げられます。

 

具体的には、ユニフォームのデザインをファンに公募し、そのデザインを公式グッズとして採用することで、ファンに自分のアイデアが形になる喜びを感じてもらえます。また、選手のMVPをファンの投票で決めるキャンペーンや、試合での注目シーンをファンが選ぶイベントなども、ファンが積極的に関わるため、チームへの愛着を深めることが可能です。  
 



ファンエンゲージメント施策の立て方

ファンエンゲージメント施策を成功させるためには、ファンのニーズを理解し、適切な手法を選定することが重要です。ファンエンゲージメント施策の立て方の流れは下記のとおりです。

 

1.ファンのニーズや課題を確認する

2.フェーズ単位でインサイトを明確にする

3.手法を選定する

4.具体的な施策を立案する

 

ファンエンゲージメント施策の立て方について、段階別に詳しく解説します。
 


1.ファンのニーズや課題を確認する

最初に、ファンがどのようなニーズや課題を抱えているのかをアンケート調査やSNS投稿などで把握します。例えば、試合観戦で不便に感じていることや、チームとの関わり方に不満があるといった声がみられた場合は、それを改善できる施策の立案を検討する必要があります。

 

また、ニーズは年齢やファン歴に応じて異なる場合があるため、可能な限り詳細に調査することが重要です。
 


2.フェーズ単位でインサイトを明確にする

ファンエンゲージメントにおける「インサイト」とは、ファンの行動や感情の傾向のことです。ファンは、「試合前」「試合中」「試合後」で行動や感情が異なります。

 

例えば、「試合前」には期待感を高める施策、「試合中」には盛り上がりをサポートする施策、「試合後」には満足度を高める施策を検討するなど、各フェーズに合った対応が必要です。
 


3.手法を選定する

ファンのニーズやインサイトを把握したうえで、ファンとの接点を作るための手法を選定します。ファンのインサイトや使用しているプラットフォームを分析し、WebサイトやSNS、モバイルアプリなどの中から、手法を決めます。

 

例えば、青年(15~24歳)から壮年(25~44歳)まではInstagramやTikTok、X(旧Twitter)、中年(45~64歳)、高年(65歳~)のファン層にはFacebookやメールでのニュースレターが有効になるなど、年齢層によって違いが生じるケースも少なくありません。費用対効果の観点から、ファンが実際に利用しているものを分析したうえで手法を決めましょう。

 


4.具体的な施策を立案する

最後に、具体的な施策を立案します。各フェーズに応じて、ファンの期待に応えられる施策を考案するとともに、KGI(最終目標)やKPI(中間目標)も設定します。例えば、試合前の盛り上げ施策としてSNSでのファン参加型キャンペーンを行い、KPIに参加数を定めましょう。

 

数値化できる目標を設定することで、施策の成果を明確に評価できるようになります。定期的に目標値の見直しや結果のフィードバック・改善を行い、ファンエンゲージメントを継続的に向上させることが重要です。
 



ファンエンゲージメントを高めた事例

ファンエンゲージメントの向上は、多くのスポーツチームが実践しています。ファンエンゲージメントの向上を目的に実施された施策について、4つ紹介します。
 


【川崎フロンターレ】オリジナルのデジタルアセット販売

川崎フロンターレはファンエンゲージメントを高めるために、川崎フロンターレ専用ECサイト「PLAY THE PLAY for Frontale」にて、デジタルアセット「購入証明画像付き選手ウォッチングツアー」を販売しました。内容は下記のとおりです。

 

●     選手バスのお出迎え権

●     バス乗車体験

●     ピッチレベルでのウォーミングアップ見学

 

デジタルアセットの購入により、ファンはスタジアムで特別な体験を楽しむことができます。また、フロンターレ限定の体験型アイテムを他のファンにプレゼントすることも可能です。

さらに、選手からのメッセージ動画を購入できるサービスも展開しました。ファンはお祝いや応援メッセージを通じて選手との距離感を縮めることができます。

出典:PLAY THE PLAY for 川崎フロンターレ「限定体験型アイテムの登場」
 



【ソニー】バーチャルスタジアムで自由な視点から試合を観戦

ソニーとマンチェスター・シティが結んだ「オフィシャル・バーチャル・ファンエンゲージメントパートナーシップ」に基づき、マンチェスター・シティのホームスタジアム「エティハド・スタジアム」を仮想空間にリアルに再現する「バーチャルスタジアム」を提供しました。

 

仮想空間には、インターネットを通じて世界中からアクセスできます。

 

注目すべきは、選手たちの動きをセンシング技術を用いて3DCGで再現している点です。ファンはあらゆる角度から選手の動きを観察することが可能になります。例えば、ペップ・グアルディオラ監督の視点やゴールキーパーの視点など、普段の観戦では体験できない視点で試合を観ることができます。

 

また、本施策の担当者は、「ファン同士が集まって議論し、クラブとの絆を深める場としても機能してほしい」としています。

出典:ソニーグループポータル「ファンダムを拡張する、未来の感動体験を創り出す」
 



【B.LEAGUE】SNS投票で出場選手を選出

B.LEAGUEでは、ファンエンゲージメントを高めるために、オールスターゲームの出場選手をファン投票で決定する取り組みを行いました。投票の方法は、下記の4つです。

 

●     SNS

●     B.LEAGUE公式WEB

●     B.スマチケ内のB.LEAGUE CARD

●     B.LEAGUEアプリ内のバスケットLIVE

 

SNS投票では、自分が推す選手のハッシュタグを投稿して投票に参加できます。また、SNSは試合の興奮をリアルタイムで共有できるため、多くのファンが参加して大いに盛り上がりました。

 

最も票を集めたのは、PG/SG枠で宇都宮ブレックスの比江島慎選手(473,282票)でした。また、千葉ジェッツの富樫勇樹選手も460,816票を獲得し、B.BLACKチームのスターティングメンバーに選出されました。

出典:【公式】B.LEAGUE ALL-STAR GAME WEEKEND 2024 IN OKINAWA 特設サイト「 オールスター総選挙」
 



【読売ジャイアンツ】オーロラビジョンで選手への応援メッセージを表示

読売ジャイアンツは、2020年のシーズン開幕に合わせて、ファンからの応援メッセージを東京ドームのオーロラビジョンに表示する取り組みを行いました。実際に応援に駆けつけることができなくとも、自宅からでも選手を応援できます。

 

Twitterで「#熱い巨党」や「#東京ドームレフト応援席」のハッシュタグを使用して、テキストや画像、動画などで選手やチームへのメッセージを投稿することで、その一部が試合中にオーロラビジョンに映し出されました。

 

本施策は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、ドーム観戦が難しいファンに向けて行われました。このように、社会情勢の影響でファンと選手の交流が難しい状況下でも、インターネットやSNSを活用することでファンエンゲージメントを高めることができます。

出典:読売ジャイアンツ(巨人軍)公式サイト「『#熱い巨党』でジャイアンツの選手を応援しよう!」

 



ファンエンゲージメント向上の効果は著しい

ファンエンゲージメントを高めることは、スポーツチームや選手の持続可能な成功を実現するための重要な要素です。ファンエンゲージメントの高いファンは、継続的にチケットやグッズを購入するため、売上増加につながります。また、ファンが参加できるイベントや試合後の選手との交流機会を提供することで、さらにファンエンゲージメントを高めることが可能です。

 

加えて、エンゲージメントの高いファンは、自身の体験を積極的にSNSで発信し、チームや選手の魅力を広める「アンバサダー」としても機能します。現代の競争が激しい市場環境では、ファン同士のコミュニティ形成や、オンラインを活用したエンゲージメント向上施策が、チームや選手のブランド価値を高め、持続的な成功を支える重要な要素です。